los episodios de suyos
『……辞めてやる。辞めてやるわよ、こんな所。』

『ソニア!待ってくれ!!』

『そうよ!あなたはこのサーカスの花形で……』



 花形、ね。そんなもの、一時の人気に過ぎないのに。



『でも、“要”ではないでしょ?人気なんて移ろうものだし、みんなの実力があれば、私が居なくても安泰な筈よ。
……私は、本当に自分を必要としてくれる場所で働くわ。』



 更衣室で、お気に入りの衣装を脱ぎ捨てた。この先、私以外の誰かが袖を通すことになるのだろう。この特権だけは、失いたくなかったのに。でも、ここを去ることを選んだのは、私自身だった。

 慣れ親しんだ稽古場にも、舞台裏のひんやりとした空気にも、かつて笑顔や涙を分かち合った人達にも。私は、別れを告げた。

 ――数ヶ月程、無気力に過ごす日々が続いた。目を閉じれば、私の名前を呼ぶ歓声が聞こえてくるようで、ろくに寝られやしない。

 何か、他に生き甲斐を見つけなければとは思う。でも、そんなものはなかなか現れなかった。“あの出会い”が、訪れるまでは。
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