los episodios de suyos
 伸びた爪をナイフ代わりに、男達に飛びかかった。勿論、爪はただの脅し。学生時代、常に校内一位を保持していた自慢の跳躍力を使って、殴る蹴るを繰り返した。

 次々と気絶していく男達。あと一人という時になって、呆気に取られていた女の子が、突然私の腕を掴んだ。目が合うと、漆黒の瞳を向けられる。


『……お姉さん、やめて。アタシ、訓練してただけなの。』

『……え!訓練っ!?』



 瞬時に動きを止めたので、最後の一人を仕留めることはなかった。女の子がホッと息をつくと、男は仲間達の様子を見てから、私に話しかけてきた。結びを解いた長い銀髪を、微かな風に遊ばせながら。



『随分派手にやってくれたなぁ!お前、なかなか素質があるぜ!』



 ボスに知らせねぇとなぁ、と呟いてポケットから携帯を取り出した男は、グレイという名のイギリス人らしい。スペインと日本のハーフだという女の子が教えてくれた。

 聞けば、彼女はこの近くに住むマフィアのボスの娘さんで、将来後継ぎとなる可能性を考えて修業していたとのこと。暴行事件かもしれないというのは、私のはやとちりだったのだ。



『ごめんなさい!余計なことをしたわ……』

『ううん、良いの。きっと父が喜ぶわ。
お姉さんは、何か仕事を?』

『いいえ、最近辞めたばかりよ。サーカスで軽業をやってたんだけど……』

『……何か事情があるのね?良かったら、それも父に話してあげて。』



 女の子が小さく笑うと、丁度通話を終えたグレイが、『お嬢!ソニア!ボスがお呼びだ、行くぞ!!』と言って手招きしている。森の奥だと思っていたのは、どうやら彼女達の組織・ローサファミリーの敷地だったらしい。歩いて5分で巨大な屋敷が見えたのには、とても驚いてしまった。
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