los episodios de suyos
『――ソニア・グラナダか。娘を“暴君”から救ってくれたそうだな。礼を言おう。』

『本当にすみませんでした!私、てっきり彼女が襲われているものだと思って……よく考えたら、動きやすい格好をしてましたよね……』

『冗談だ。お前が一騒動起こしてくれて、私は反って良かったと思っているよ。』



 穏やかに笑う50代の長身の男性は、この屋敷の主。ユーモアのある彼は、どうやら怒っている訳ではないらしかった。



『あの、それはどういう……』

『グレイと娘から聞いた。お前には、“ウチに入る素質”があると。良ければ、仕事を辞めたいきさつを話してくれないか?』



 マフィアにスカウトされるなんて、と内心穏やかではなかったけど、不思議とその男を怖い人だとは思わなかった。理由を告げると、頷く男性二人の傍らで、女の子が『……そんなの仲間じゃないわ』と呟いた。



『そうだな、私も未来(みくる)と同じ意見だ。
ソニア、どうだ?私達マフィアの絆は固い。“仲間のために命懸けで戦う覚悟のある者達”の集まりだ。お前にもその覚悟があるなら、是非仲間になって欲しいのだが。』



 ――この人達となら、何か変わるだろうか。もう一度、誰かと信じ合えるだろうか。

 彼らが何よりも仲間を重んじる集団だと言うのなら、懸けてみよう。これまでの人生が無駄ではなかったと、思えるようになるかもしれないから。



『……分かりました。ローサで働かせて下さい。』

『そうか、助かるぞ。グレイも半年前に入ったばかりだから、一緒に学ぶと良い。未来もだぞ。』



 男は私達に言った後、泥だらけだった女の子に『風呂に入ってきなさい』と伝えた。その日から、私は二人を“ボス”、“お嬢”と呼ぶようになった。
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