los episodios de suyos
『……“イリス”はどう?』

『イリス?』

『スペイン語で“虹”を“アルコ・イリス”って言うの。アタシはピッタリだと思うけど。』

『イリス、か……お姉さんの名前は?』

『ミクル。漢字ではミライって意味の字を書くんだけど、変わり者の両親でね。“未ライガ来ル”で“未来”なんだって。』



 アタシの話を聞いた彼女の顔は、まるで初めてピアノの鍵盤に手を置いた子供のようにキラキラと輝いていて。“その先”が早く見たいと思ってしまう程に眩しかった。



『雨、止んだよイリス。アタシの家に来るかどうかはアンタが決めなさい。』

『……はい!私、未来のお家に行きたい!!』



 ――あぁ、やっぱりアタシは間違っていなかった。イリスの笑顔は七色の輝きを放っていて、どんな絵の具よりも鮮やかだったのだ。アタシはイリスを屋敷に連れ帰り、お風呂に入れてやって昔着ていたお古の服をたんまりあげた。イリスはとても喜んで、任務の時以外はアタシの側をいっときも離れなかった。

 姉妹みたいな間柄、だったんだと思う。やがて『私も未来のお世話がしたい!』と申し出たイリスにだけ、アタシは他のメイドには絶対許さないタメ口を許可したから。
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