los episodios de suyos
 ――ふと気付けば、自分を濡らしていた小雨は過ぎ去っていた。腕時計を見て、随分と時間が経っていたことに気付く。



「イリス……あの時我儘で参列しなかったアタシを許してくれる?お詫びに花なんて持ってきてもダメ、かな……」



 イリスが『未来に似てるから!』と好んだ真っ赤な薔薇。それはアタシのファミリーを表す紋章でもある。お供えに薔薇の花束なんて、アタシはどれだけ非常識なんだろう。でも、これ以外の花を思いつかない。これしか、ないのだ。

 今日は彼女が居なくなって、丸一年が経った日。彼女にちゃんと挨拶が出来なかったアタシは、今こうして改めて会いに来ているという訳だ。左手の薬指に光る指輪の報告も、口には出さなかったけれどしたかったから。



「……イリス、ごめん。アタシそろそろ行かなくちゃならないの。小舅秘書からかかってくる煩い電話は、ここの皆様の迷惑になるに違いないしね。」



 そう言った矢先、ポケットの中でブーブーと音を立てる携帯。アタシは溜め息をついて、一旦電源ボタンを押す。



「……Que en paz descanse eterna, Iris!(お休み、イリス!)」



 呟いたスペイン語が、やけに空まで届く。見上げれば、“イリス”が優しく微笑んでいた。



fin.
→後書き
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