人事部の女神さまの憂い
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「いらっしゃい」
「あの、これ。よかったら」
迷った末に、柏木さんが好みそうな地元の日本酒をお土産に持ってきた。柏木さんはスウェットタイプのズボンにセーター、そして眼鏡をかけているという完全なオフスタイル。こういう気を抜いている柏木さんから出る雰囲気が、やっぱり好きだなと思うと直視できなかった。
あの時は勢いだけで電話をしちゃったけど、今朝実家を出るときから、心臓はドキドキしっぱなし。何を、どう伝えればいいのか、そんなことばかりもんもんと考えていた。
持ってきた日本酒のラベルを見て、これ好きなやつだ、と言いながら
「コーヒーでも飲む?」
ソファーに促してくれたけど、ついついソワソワしてしまって落ち着かない。
コーヒーカップを両手に持った柏木さんは、そんな私を見て、ふふっと笑いながら
「どうしたの、ゆりちゃん?」とからかいの色が見える声を出す。
それで初めて、部屋に入った時から感じていた違和感が何か分かった。