好きにならずにいられない
連れてこられたのは王子の行きつけだという小料理屋だ。
店に入った途端に王子というより素の岡田裕貴として飲み始めたようだった。
岡田さんは先程までのふたりの間に流れていたイヤな空気を無くすように
「何か嫌いなものある?
なかったらこのマグロのかまとか美味しいから食べてみるか?」
と世話を焼いてくれ
「森田がさぁ…」
などと仕事の話や世間話など話してくれ楽しませようとしてくれている様だった。
そんな気遣いもあり居心地の悪さや彼に対する嫌悪感が少し薄れて楽しい時間を過ごしていた。
この人のモテるのがわかるなぁとしみじみ感じた。
ふと顔をちゃんと見たことがないなぁとテーブルを挟んで正面に座っている彼を近くで見たくなり自分からテーブルに身を乗り出すように顔を近づけてマジマジと見つめていた。
たぶん私は酔っているのだと思う。
だってこんなこと普段では絶対にやらないことをしているから。
「やっぱり格好いい。
モテるのがわかるね」
なんて口まで勝手に動いてる。
自分ではわからないが相当酔っているのだろう。
岡田さんはそんな訳のわからない私の行動や言動にビックリしながらも私から目をそらさずに見つめ続け
「なんで俺のこと興味ないの?」
と酔っぱらいのように絡みだした。
「何もかもが完璧で気持ち悪いから」
「完璧じゃない最低な俺を見てるだろ?
その答えは納得出来ないなぁ」
などと不満顔をみせた。
私ももう完全に酔ったようで
「たぶん生理的に好きじゃないのかも。
きっと前世でなんかあったんだと思う」
なんて笑いながらまたまた口が勝手に言い出していた。
それを面白そうに
「前世かぁ…
そりゃ問題だな。
俺はお前に興味を持ち始めてるのに」
なんて冗談で返してくる。
「残念ですがだって前世からの怨念なので私の気持ちは変えられないですねぇ。
ごめんねぇ」
というと岡田さんは大笑いしている。
「でも飲む前は苦手だったのが今はそこそこ好きですよ」
「そんな可愛い顔で言われると俺、限界なんだけど」
「はい。私ももう限界が近いので帰りたいのです。このままだとたぶん寝ます」
とチグハグな会話をし岡田さんはまたまた大笑いしている。
「じゃあ今日は大人しく帰ろう」
「はい!」
そんな会話をしたのが最後の記憶だった。