くれなゐ症候群
そうして人慣れした猫たちは、必ず姿を消した。
どれだけ待っても、どれだけ探しても、二度と会えることはなかった。


保健所が、定期的に駆除していることなど、その当時は知りようがなかった。

知っていたとしても、どうしようもない。
奈緒も猫たちと同じくらい、大人に対して無力だ。


今でも、野良猫を見かけると、足を止めてしゃがみこんで、声をかけてしまう。



ぼんやりと家路をたどる。

ブロック塀の掲示板に「野良猫に餌をやらないでください」と太字で書かれたポスターが貼られているのが、目に入った。

殺処分される命を減らすために、避妊・去勢手術への協力を訴えている。

寒風にばさばさと吹かれながら、はがれまいとするように、板にしがみついている。
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