僕らの空は群青色
群青の帳
これから書くことについて、僕は二十五年経った今でも平常な気持ちで思い起こすことができない。
*
二〇〇一年の九月がやってきた。朝夕の気温が下がり、ある日ふと空気に秋の匂いを感じる。香ばしい草の香りだ。
この街は駅前こそ華やかだが、十五分も歩けばすぐに田園にたどり着く。稲穂がほんの少し色濃くなる時分である。道路には蝉の死骸がいくつも転がり、端のコスモスは今にも花びらが開きそうだ。
台風がやってきて、駅前にある商店の看板を壊していった。
夏の終わりである。
とはいえ、日中はまだ真夏のように暑い。そして大学生の夏は長く、僕の夏休みはあと半月以上も残っていた。
「海に行こう」
渡が言い出したのは九月に入ってすぐだ。
深空の容体は小康状態らしく、続報が入ってこないため、僕らは見舞いにも行けず、時間を持て余していた。
その日の僕たちは前夜遅くまで録画した洋画を見て、本を読んでいたため、昼過ぎまで僕の部屋で眠っていた。
渡がうちに泊まる時、長座布団をひき、洗い替え用のタオルケットを貸すのが恒例だったけれど、海の件を言い出した渡はそこにごろりと転がって雑誌を読んでいた。
「海に?いつ?」
「明日。今日は俺、これからバイトだから」
「明日ね、うん」