僕らの空は群青色
星は今でもあの空に
渡の事件は一時世間を騒がせた。
被害者が犯罪歴のある未成年。殺害されたのは過去の罪にまつわる怨恨。
それだけでマスコミにはセンセーショナルだった。
「少年A」と報道される渡に僕は胸を痛めたが、直後に米国で大きなテロが起こり、報道はうやむやになっていった。
二〇〇一年の九月のことである。
遠坂深空は、渡の葬儀の日からまた昏々と眠り続け、数えて十日目の朝、両親と僕の前で目を覚ました。
それ以来、彼女は人並み程度にしか眠らなくなった。
秋が深まる中、僕はリハビリを始めた彼女のもとに通い続けた。
そうする以外、何も思い付かなかった。
最初のうち、彼女は僕が誰だか理解していなかった。
よく来る親戚の人、その程度の認識。
当然、眠りの淵で僕に話しかけていたなんて、覚えているはずもない。
そもそも、深空には眠りにつく前の記憶がほとんど残っていない。
あの日、僕の前で目覚めた深空は確かに弟の名前を口にした。
しかし次に目覚めた時にはすべてを忘れていた。
自分が眠ってしまった経緯も、半分ずつ血のつながった兄と弟のことも。
僕と彼女の両親は早い段階で、強いて思い出させることもないと、過去と兄弟の話を伏せた。
彼女の認識は「昔、兄と弟がいた」という状態で止まっている。