僕らの空は群青色
何度も通ううちに、彼女は僕を友達の一人と「認識」したようだ。
会いに行けば、ベッドの上で嬉しそうに笑う。
最初のうちは言葉も不自由で、指をさしてゆっくり喋ったり、説明したりするのを僕はうんうんと聞き、彼女に雑誌や花やお菓子を差し入れた。

「恒くんはいつから私と友達なの?」

僕よりふたつ年上で21歳だった深空は、数年のブランクがあるせいか僕よりずっと幼く見えた。
幼い声音で聞かれ、僕はにっこり笑って答えた。

「ずっと、ずーっと昔から友達だよ」

そう答えると深空は安心してそれ以上は聞いてこない。

一ヶ月も経つと言葉はだいぶ安定した。脳に障害は残っていないそうで、いずれは健常者として普段通りの生活に戻れる見込みだ。

歩行訓練が始まった。弱り切った細い身体を手すりにもたせ、よたよた歩く深空が心配で、僕は単位をやりくりして毎日のように病院に通った。

「恒くん、学校は?」

「大丈夫、僕、優等生だからね。一回くらい講義を休んでも、まったく問題なし」

「それならいいけど、あまり過保護に心配しなくても平気だからね」

深空は口を尖らせ、そう言ったそばから、何もない床でつまづきよろめく。
僕は慌てて手を差し伸べ、彼女の軽い身体を抱きとめた。

「今日はもうこのへんにしておいたら?」

「駄目、ドクターがあと五周って言ってた」

深空は生真面目に言って、リハビリルームの手すりのスペースを歩き回る。
僕はその背中に声をかける。

「病室までは、僕が車椅子を押すからね」

深空は振り向いて片手をあげた。
そんな余裕ないくせに。僕は苦笑しながら、彼女の歩行を見守る。
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