僕らの空は群青色
終
二十五年が経った。大きな戦争はないけれど、テロや災害で世界中が何度も乱れた。飛躍的に進化したものもあるのだろうけれど、日常に紛れてしまうと案外気づかない。僕の体感でいえば、便利なものは増えても暮らし自体は何も変わっていないように思う。
強いて変化を言えば、僕は家庭を持った。
妻の深空、息子の亘と亨、娘のつむぎ。かけがえのない家族だ。
獣医院を開業し18年になる。あの日、渡とふたりで語った夢を僕だけが実現した。
長男の亘はあの年の僕たちと同い年になった。彼は都内の美大に通っている。卒業後は九州に行き陶芸の勉強をしたいそうだ。
彼は僕たちとはまったく違う青春を、人生を歩んで行くだろう。いや、そうでなければ困る。
亘が産まれた時、その名を付けたのは義母。
僕の名に因んだ名を提案しながら、僕にはその意味がちゃんと伝わっていた。
亘(わたる)と渡(わたり)。
音で一字違いのその名は、僕にも義母にも大事な名だった。
義母は心配そうに僕を見つめ、僕はいい名前ですと頷いた。それでちゃんと通じた。
義母が赤ん坊を抱き上げて落とした涙を僕は忘れられない。愛情と歓喜、悔恨の涙だ。
その後、義父が亡くなった後も、義母は僕と一緒に長くこれらの過去を深空に隠し通してくれた。
すべては深空のためだったけれど、義母も亡くした息子のことを語れないのはどれほど辛いことだっただろうと思う。