僕らの空は群青色
渡は高校を中退したと言っていた。どういった経緯でかはわからない。でも渡には知りたいという欲求がある。無心に本を読み続けるのも、知りたいという欲求の現れだ。

学ぶ機会を途中で失った渡だからこそ、きっと僕ら大学生なんかより、ずっと学びたいのかもしれない。
途端にチャラチャラと遊んでばかりの大学生活が申し訳なくなった。学費を出してくれている両親にも、目の前の渡にも。

「渡、やっぱり大検とってさ、来年受験を考えたら?」

僕は親切心というかお節介心を出して提案してみる。渡は案の定、片目だけすがめた呆れ顔で答えた。

「やだよ、意味ねぇもん」

意味はある。渡はもっと学べる。だけど、渡自身が意味を見いだせないなら僕が無理強いはできない。

「まあ、気が変わったら言ってよ。受験勉強、付き合うよ」







僕の心にはあることが引っかかっていた。
渡と仲良くなればなるほど、彼のバックグラウンドの不明瞭さに興味がいく。

詮索はしたくないと思いつつ、先日楽しそうに大学を覗いていた渡を思うと、もう少し彼の生活は変革ができるのではないかと思うのだ。お節介精神だと自覚はある。渡は喜ばない。でも、彼が親元から離れ、アルバイト生活をする理由が、僕にはまったく見えなかった。ただなんとなく一人暮らしをしたかった若者ではない。家族と居づらい理由があって、この生活に逃げているのだとしたら……。

「あのさぁ、おまえのお姉さんに会いに行かない?」

その日は、ふたりとも特に予定がなく、夜に僕の部屋にいた。何を言うつもりもなかったのに、気付けば僕はそんなことを言っていた。
僕の頭には、一度だけ見たベッドの上の少女が浮かんでいた。
この世のものとは思えない静けさを持った渡の義姉は、海底の遺跡で眠っている。
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