僕らの空は群青色
わかってる
もらった携帯電話の番号を見て、僕は当然ながら随分悩んだ。
渡には母親と会ったことを、まだ言っていない。言ってはいけないことだと思う。
彼の母親は、あくまでこっそり僕から渡のことを聞きたいのだろう。
本当に何があって、こんな風に断絶しているんだろう。
一人息子でのんびり育てられた僕にはわからないことばかりだ。
無神経に一歩踏み込んではいけないことはもうわかっている。
誰もが僕と同じ価値観ではないのだから。
結局、僕は黙ってその電話番号を見つめる時間に耐え兼ねて、翌日には渡の母親に電話をかけた。
昨日会った渡の友人である。お会いすることはできるけれど、僕は彼についてたいしたことはお話できないかもしれない。
彼の母親はそれでもいいから会いたいと言ってきた。
翌週の講義がない午後、僕は渡の母親と待ち合わせた池袋に向かった。
デパートのレストランフロアで昼下がりに会った僕らは、落ち着いて話ができそうな洋食屋でケーキセットを頼む。
「急にお呼びたてして申し訳ありません」
年上の女性に頭を下げられたことがない僕は、渡の母にお辞儀をされ、慌てた。
「いえ、本当に。僕でお役に立てるかわかりません」
「いいんです。渡が家を出て一年ほどになりますが、私も夫も、あの子がどんなふうに暮らしているか、まったくわからないものですから」
彼女は後ろめたいことがあるでもないのに、目をそらしうつむいていた。
僕は言葉を選んで話し始めた。