僕らの空は群青色
両親との暮らしは何年経っても円満にはならず、渡は週に何日も学校に行かなかった。
母親はたまに思い出したように説教をしたが、渡の心には響かない。

渡は母をほとんど無視した。
母が中学校から呼び出され、何度も面談していることを知っていた。
渡がよくない年上の仲間とつるんでいると近所で噂され、連れ子だからと揶揄され、じっと耐えていることも知っていた。
それでも母は渡にとって裏切者だった。

ある日、夜中に帰るとキッチンで母が泣いていた。
並んで座っているのは深空だ。母親は両手で顔を覆い、泣きながら口説いていた。

『深空、深空……私にはあなたさえいればいいわ』

その言葉は様々なことを諦めていた渡にも重く響いた。

そうか、俺はいらないか。暗い廊下に立ち、渡はそう思う。
いざ言葉で聞くと、足元からすうすうと嫌な冷気が這い上がり、指先も足先もちりちりと痛かった。
ああ、俺は傷ついているのかと知り、渡はわずかに笑った。

同時に養子しか頼みにできない母を哀れに思った。
深空が母の脇でうつむいていた。深空はなんと答えるのだろう。
意地悪で自暴自棄な気持ちで、渡は深空の言葉を待った。
すると、深空はこう答えた。

『私は、渡と一緒がいい。お父さんとお母さんと渡と私。四人一緒がいい』

優等生の答えだ。反吐が出る。
そんな悪態を腹の奥でつきながら、渡は泣きそうな気持になった。

自分が望まれている事実が嬉しかった。
母とはすれ違ってしまった情愛を、深空はきちんと用意してくれている。
手を広げ、待っていてくれる。
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