僕らの空は群青色






実はこの頃、僕はひとりだけで深空のお見舞いに行ったことがある。

頭の中に響く彼女の声は、渡と彼女の母に会った時以来聞いていない。
ふたりきりで会えば、もしかすると……。そんな気持ちがあったことは間違いない。

下心的でもあったし、一方で僕は深空になんとしても目覚めてほしかった。

渡は彼女がいずれ死ぬのだと言った。
しかし、それは本当だろうか。これほど長い間昏睡状態で眠っている彼女だ。脳の機能はわからないけれど、目覚める可能性だって残されているんじゃないか?
素人考えかもしれない。でも希望を捨てるには早いんじゃないだろうか。

僕は面会の手順を踏み、深空の病室を訪れた。
やましいところはないと思いつつ、やはり渡に黙ってきてしまったことに申し訳なさは感じる。

中央のベッドで深空は静かに眠っていた。
呼吸器の音が響く。自発呼吸はできるけれど、弱いそうで呼吸器は必須のようだ。
掛布団からのぞく点滴が刺された腕は痛々しく細かった。当たり前だ。三年も動かさず、点滴の栄養のみで命をつないでいるんだから。

「ねえ、深空さん、きみだよね。僕に話しかけてくるの」

誰もいないから、僕ははっきりと言葉にして問いかけた。

当然ながら、目の前の深空はぴくりとも動かない。
いつも真後ろや横から聞こえてくる、あの愛らしい声も聞こえてこない。

「深空さん、あらためまして、僕は渡くんの友人の白井恒と言います」

滑稽だと思いながら、僕は自己紹介をする。
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