【完】クールな君に告白します
その声に不意に向けられた椎名くんの視線をすぐに辿れば。
今日も参考書を手にしている正木さん。
けど、それをパタンッと閉じると鞄を持って席を立った正木さんは、急ぎ足で教室を出ていった。
しばらく空席になった正木さんの席を呆然と視界に入れていると、隣から半分呆れたような溜め息が聞こえる。
「……早退するみたいだぞ。創立記念祭の準備なんかさせる時間はないって、廊下に正木の母親が来てた」
「………嘘、」
正木さんが借してくれた恋愛小説を握りしめる。
このまま、正木さんを帰してしまっていいのだろうか。
正木さんは、本当に大好きな恋愛小説を封印して、参考書を見つめる日々を望んでいるのかな。
椎名くんの瞳を見上げると、私の答えを待っているように見えて。
その瞳を見つめ返した私は、椎名くんに一度大きく頷きをみせると、教室を飛び出した。