キミ専属
再スタート
━━━次の日。
今日は私が新しく担当するタレントさんが決定する日だった。
新品のシャツをスーツの下に着た私は、心を入れ替え新しい気持ちで事務所に向かっていた…はずだった。
我が家の最寄り駅から3つ目の駅で電車を降りた私は、てくてくと都会の街並みを歩く。
街角を曲がると見えてきたのが流れ星芸能事務所だ。
『…ん?』
事務所の前に人が立っていることに気付いた私は思わず足を止めた。
その人は細くて手足が長くて、大きなサングラスをかけている。
きっと変装しているつもりなんだろうけど、その姿はどこからどう見ても翔太さんだ。
『昨日、出社時間を聞いてきたのは私を待ち伏せするためだったのか…』
謎が解けた私は翔太さんに出社時間を教えてしまったことを後悔した。
顔合わせたくないのに…。
でも、翔太さんは事務所の入り口に立っているのだから顔を合わせるほかない。
逃げ場がなくなってしまった私はどうしようか必死で考える。
そうして思いついたのがこの作戦だ。
その名も「全速力で事務所に駆け込む作戦!!」
単純すぎる作戦だけど、今はこうするしかないと思うの。
『…よし』
呼吸を整えた私は事務所に向かって走り出す。
そして、翔太さんのいる事務所の入り口を全速力で通り抜け、事務所に駆け込んだ━━━━━はずもなく。
走っている途中、突然目の前に人が立ちはだかり、ぶつかる危険を察知した私は思わず目を閉じた。
『ぶつかる…!!』
そう思った次の瞬間だった。
━━━ギュッ
『…え?』
気付くと、私は誰かの胸に受け止められていた。
…まるで抱きしめられているみたいに。
自分の今の状況を理解した私は顔を真っ赤にしてこう言った。
「こんな所で走ってすみませんでした…っ。もう体離してもらって大丈夫ですよっ」
遠回しに“体離してください”と言ったつもりだったのだが、その人はなかなか離れてくれない。
離れるどころかむしろ私を抱きしめる力が強くなっていく。
『何かおかしい』
そう思った私は先ほどより強い口調でこう言った。
「離してくださいっ」
…すると。
「やだ」
私を抱きしめているその人が言った。
その声を聞いて、私は『ああ、やっぱり』と思った。
翔太さんだ…。
「新しいタレントのとこなんて行かせたくない」
翔太さんが私を抱きしめながら言う。
「そんなこと言われたって困ります」
私は平然を装ってそう言った。
内心は動揺しまくり。心臓も破裂しそう。
…だけど、
今翔太さんが想っているのはきっと私じゃなくて玲子さん。
玲子さんを抱きしめる代わりに私を抱きしめているんだ。
そう思うと、どうしようもなく込み上げてくる苛立ち。
「離して…っ。離してよっ…!!」
気付けば私は泣きながらそう叫んでいた。
翔太さんは私が泣いていることに気付くと、ハッとしたように体を離し、「ごめん」と一言そう言った。
私はそれに返事をせず、隙を突いて事務所の中に駆け込んだ。
今日は私が新しく担当するタレントさんが決定する日だった。
新品のシャツをスーツの下に着た私は、心を入れ替え新しい気持ちで事務所に向かっていた…はずだった。
我が家の最寄り駅から3つ目の駅で電車を降りた私は、てくてくと都会の街並みを歩く。
街角を曲がると見えてきたのが流れ星芸能事務所だ。
『…ん?』
事務所の前に人が立っていることに気付いた私は思わず足を止めた。
その人は細くて手足が長くて、大きなサングラスをかけている。
きっと変装しているつもりなんだろうけど、その姿はどこからどう見ても翔太さんだ。
『昨日、出社時間を聞いてきたのは私を待ち伏せするためだったのか…』
謎が解けた私は翔太さんに出社時間を教えてしまったことを後悔した。
顔合わせたくないのに…。
でも、翔太さんは事務所の入り口に立っているのだから顔を合わせるほかない。
逃げ場がなくなってしまった私はどうしようか必死で考える。
そうして思いついたのがこの作戦だ。
その名も「全速力で事務所に駆け込む作戦!!」
単純すぎる作戦だけど、今はこうするしかないと思うの。
『…よし』
呼吸を整えた私は事務所に向かって走り出す。
そして、翔太さんのいる事務所の入り口を全速力で通り抜け、事務所に駆け込んだ━━━━━はずもなく。
走っている途中、突然目の前に人が立ちはだかり、ぶつかる危険を察知した私は思わず目を閉じた。
『ぶつかる…!!』
そう思った次の瞬間だった。
━━━ギュッ
『…え?』
気付くと、私は誰かの胸に受け止められていた。
…まるで抱きしめられているみたいに。
自分の今の状況を理解した私は顔を真っ赤にしてこう言った。
「こんな所で走ってすみませんでした…っ。もう体離してもらって大丈夫ですよっ」
遠回しに“体離してください”と言ったつもりだったのだが、その人はなかなか離れてくれない。
離れるどころかむしろ私を抱きしめる力が強くなっていく。
『何かおかしい』
そう思った私は先ほどより強い口調でこう言った。
「離してくださいっ」
…すると。
「やだ」
私を抱きしめているその人が言った。
その声を聞いて、私は『ああ、やっぱり』と思った。
翔太さんだ…。
「新しいタレントのとこなんて行かせたくない」
翔太さんが私を抱きしめながら言う。
「そんなこと言われたって困ります」
私は平然を装ってそう言った。
内心は動揺しまくり。心臓も破裂しそう。
…だけど、
今翔太さんが想っているのはきっと私じゃなくて玲子さん。
玲子さんを抱きしめる代わりに私を抱きしめているんだ。
そう思うと、どうしようもなく込み上げてくる苛立ち。
「離して…っ。離してよっ…!!」
気付けば私は泣きながらそう叫んでいた。
翔太さんは私が泣いていることに気付くと、ハッとしたように体を離し、「ごめん」と一言そう言った。
私はそれに返事をせず、隙を突いて事務所の中に駆け込んだ。