キミ専属

　泣きながら事務所に駆け込み、涙も拭かずにそのままオフィスルームに入ると、オフィスルームは一気に変な空気になった。
そんな私に一番最初に駆け寄ったのは社長だった。
社長は心配そうにこう言った。
「畑中さん…翔太が何かしたのかい？」
その言葉に思わず私は驚く。
「なんで知ってるんですか…？」
私が聞くと、社長は「やっぱりそうか」と呟き、こう続けた。
「昨夜からずっと〈梅ちゃんを俺のマネージャーのままにしてください〉という翔太からの連絡が絶えなくてね。何度も無理だと言ったんだが、聞く耳を持たなくて。おかげで一睡もできなかったよ。…それに、さっきから翔太が事務所の入り口をウロウロしていたから不安だったんだ」
社長は引きつった笑みを見せている。
その顔からは疲れが感じられる。
ただでさえ仕事量が多い社長は、睡眠時間が短い。
そんな貴重な睡眠をとれなかったなんて辛いに決まってる。
「私達のせいで、すみません」
私は深々と頭を下げる。
そんな私を見た社長はまた引きつった笑みを見せ、こう言った。
「畑中さんのせいではないよ」
きっと社長は自分のせいだと思ってる。
“翔太さんと玲子さんを別れさせて玲子さんをクビにした自分のせいだ”って。
━━━でも、これは本当に社長のせいなんだろうか。
…ちょっと違う気がする。
思わず考え込んでいると「それでね、畑中さん」という社長の声が聞こえ、ハッとした。
「はい、なんでしょうか」と慌てて返事をすると、社長はこう言った。
「畑中さんが新しく担当することになるタレントを紹介するよ。森田さん、来てくれるかな」
社長が“森田さん”という人の名前を呼ぶと、どこかから「はい」という声が聞こえた。
それに続いて、背が小さくて可愛らしい、黒髪ツインテールの女の子が私達の元へ歩いてきた。
その女の子は私の目の前で足を止めると、少し背が高い私を見上げ、笑顔でこう言った。
「はじめまして。新人タレントの森田 由真、16歳です。由真って呼んでください。よろしくお願いします」
由真さんはさすが新人タレントといったように、どこもかしこも初々しい。
でも、その初々しさがいい味を出していて、とても好感が持てる。
私はさっきまで泣いていたのも忘れ、笑顔でこう言った。
「畑中 梅、22歳です。私も新人マネージャーなので、新人同士お互い頑張っていきましょうね。よろしくお願いします」
すると、由真さんは目をキラキラ輝かせてこう言った。
「梅さんみたいな優しそうな人が私のマネージャーでよかったです！」
それを聞いて、私はますます嬉しくなった。
由真さんとなら上手くやっていけそう…!!

そんなこんなで、私は由真さんの専属マネージャーになりました。