キミ専属
 収録が終わった後、由真さんを家まで送り届けた私は、元来た道を引き返した。
そのままてくてくと歩いていくと、前方に小さな公園が見えてきた。ベンチに座る細身の男性の後ろ姿も見える。
私は小走りで公園に入ると、その後ろ姿に近づき、こう言った。
「お待たせしました」
すると、笑顔の翔太さんが振り返った。
「梅ちゃん、お疲れ様」
ニコニコしながらそう言う翔太さん。
私もニコッと笑ってこう言った。
「翔太さんこそお疲れ様でした」
━━━「じゃあ、いこっか」
翔太さんがそう言うと、私は緊張した面持ちでコクンと頷いた。
これから私達が向かう先はというと…。

 私達が辿り着いたのは、何の変哲もないマンションの一室だった。
部屋に入った途端にくつろぐ翔太さんとは対照的に、玄関に突っ立ったまま固まる私。
どう頑張ったって、くつろぐことなんてできない。
…だってここは翔太さんの家だから。
家に誘われて来たのはいいものの、男性の家に上がったことがない私は、何をどうすればいいのか分からない。
そんな私を見た翔太さんはフッと笑ってこう言った。
「そんな所に突っ立ってないで、ここに来なよ」
翔太さんは自分が座っているソファの横をポンと叩く。
「は、はい…」
私はドキドキしながら部屋に上がり、翔太さんの横にちょこんと座った。
すると、翔太さんはくるっと体の向きを変えて私と向かい合う。
翔太さんの綺麗な顔が目の前にきて、どうしようもなく胸がドキドキした私は、思わず翔太さんから目を逸らした。
そんな私に翔太さんはこう言った。
「梅ちゃん、目逸らさないで。俺のこと見て」
それを聞いた私はためらいがちに再び翔太さんを見る。
白い肌。
透き通った綺麗な瞳。
通った鼻筋。
小さめの口。
翔太さんの顔の1つ1つのパーツを目に焼きつけるようにじっと見とれていると、翔太さんの顔がだんだん近づいてきていることに気づいた。
『キスされる…!』
そう思った私は反射的にぎゅっと目をつぶる。
次の瞬間、唇に柔らかい感触がした。
翔太さんがまとう爽やかな香りもする。
私はその感触と香りに翻弄され、溶けてしまいそうな感覚に襲われた。
翔太さんと唇を重ねながら、思わずぽーっとしていると、突然翔太さんが唇を離し、こう言った。
「梅ちゃん、ちょっと口開けて」
「…?」
それを聞いた私は、なんでだろう?と思いながらも、言われた通りに口を開けた。
すると、翔太さんは再び私に唇を重ねた…と思いきや。
「!?」
口の中に“ヌルッ”という感触がして、私はビクッとした。
『え!?なにこれ!?舌…!?』
私の頭の中はもうめちゃくちゃ。
だけど、なぜか嫌とは思わない。
むしろ、もっとしてほしい…と思ってしまう。
…私、おかしいのかな。
気付けば私達は、夢中でお互いの舌を絡めあっていた。

 それからしばらくの間、翔太さんの部屋にはチュッチュッという音が響いていた。
冷静に考えれば恥ずかしい状況だけど、夢中になってキスをしている私達にとってそんなことはどうでもよかった。
『ずっとこうしていたい』
私は回らない頭でそう考えた。
しかしその時、翔太さんが私から唇を離した。
思わず寂しげな表情で翔太さんを見る私。
そんな私を見た翔太さんはクスッと笑ったかと思うと、私の首筋にキスをした。
びっくりする私にお構いなしの翔太さんは、夢中で私の首筋に吸いつく。
すると、首筋にチクッとした痛みが走った。
「いた…っ」
思わずそう言うと、翔太さんは顔を上げてニヤッと笑った。
その顔を見て嫌な予感がした私は、自分の鞄から手鏡を取り出し、首筋を見る。
「!!!!!」
嫌な予感は的中した。
私の首筋にはくっきりとした赤色の痕がついていたのだ。
「翔太さん…。これはなんですか」
私が尋ねると、翔太さんは楽しそうにこう言った。
「キスマーク♪」
それを聞いた私は、顔を真っ赤にして言った。
「なんでこんなところにつけるんですか!!目立っちゃいますよ!!」
「なんで?いいじゃん。梅ちゃんは俺のものっていう証だよ」
「………」
…いや、嬉しいよ?
嬉しいんだけど…。
人に見られたらどうしよう…。
引きつった笑みを浮かべる私を横目に翔太さんは満面の笑みを浮かべていた。
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