キミ専属
サヨナラ
「水瀬、ごめん。俺…」
水瀬さんに向かって何かを言おうとする翔太さん。
私はその翔太さんの言葉を遮って、今まさに行われている撮影の迷惑にならないように気を使いながらも冷たく力強い声でこう言った。
「翔太さん、私あなたには幻滅しました。過去に付き合っていた人と私を重ね合わせるなんて人として最低です。そんな人と一緒にお仕事なんてもうしたくありません。…だから私、あなたのマネージャーを辞めることにします」
そう、これが私の決断。
私がいなくなればきっと2人は幸せになれるはずだから。
翔太さんは驚いたような顔をして私のほうを向くと、「嘘だろ?」と弱々しい声で言った。
私はそんな翔太さんの目を真っ直ぐ見据えてこう言った。
「本当です」
…翔太さん、ごめんね。
短い間だったけど、あなたと一緒にいられて本当に幸せだった。今までありがとう。
…幸せになってね。
「さようならっ…!」
私は一言だけ告げると、翔太さんと水瀬さんに背を向け、スタジオを飛び出した。
コツッコツッコツッコツッコツッ…
スタジオを飛び出した私はまだ履き慣れないパンプスの足音を響かせながらだだっ広い廊下を走っていた。
向かっているのは流れ星芸能事務所。
社長に翔太さんのマネージャーを辞めると伝えるためだ。
でもやっぱりスーツにパンプスは走りにくくてしょうがない。
…走る必要なんてないのかもしれないけど。
私は足を止めて後ろを振り返ってみる。
広くて長い廊下には静寂が広がっていて、私の名前を呼ぶ翔太さんの声も、私を追いかけてくる足音も全く聞こえない。
私はそれに少し胸が痛くなる。
自分から翔太さんのマネージャーを辞めると言っておいて、追いかけてきてほしいなんて。「辞めないで」って言って引き止めてほしいなんて。私は我が儘だ。
私は気持ちを切り替えるように自分のほっぺたをパンパンと叩くと体を向き直し、再び走り始めた。
『もう決めたことなんだから…!!』
スタジオがある建物を抜け出した私は、何時間か前に翔太さんと一緒に歩いた道を夢中で駆け抜けた。
『事務所まであと少しだ…!』
そう思った時だった。
私は見覚えのある人の姿を見つけ、思わず足を止めた。
その人も私に気付くと、ピタリと足を止め、こう言った。
「…梅ちゃん?」
この低くて落ち着いた声…。間違いない。
「裕紀先輩…」
私に夢を与えてくれた、裕紀先輩だ。
「元気?…でもなさそうだね」と笑う裕紀先輩。
久しぶりに見る裕紀先輩の優しい笑顔に私の張り詰めていた気持ちが解けていく。
気付けば私の目からポロリとこぼれ落ちる涙。
そんな私を見た裕紀先輩は何かを察したかのようにこう言った。
「ここの近くに美味しいカフェがあるんだ。よかったら今から一緒に行かない?」
さっきまで急いで事務所に向かっていた私だけど、『今だけはこうして裕紀先輩と一緒にいたい』と思った。
事務所にはあとで行けばいいよね…。
そう考えた私はハンカチで涙を拭くと、笑顔でこう言った。
「そこ、連れてってください」
すると、裕紀先輩は嬉しそうに「わかった」と頷いた。
水瀬さんに向かって何かを言おうとする翔太さん。
私はその翔太さんの言葉を遮って、今まさに行われている撮影の迷惑にならないように気を使いながらも冷たく力強い声でこう言った。
「翔太さん、私あなたには幻滅しました。過去に付き合っていた人と私を重ね合わせるなんて人として最低です。そんな人と一緒にお仕事なんてもうしたくありません。…だから私、あなたのマネージャーを辞めることにします」
そう、これが私の決断。
私がいなくなればきっと2人は幸せになれるはずだから。
翔太さんは驚いたような顔をして私のほうを向くと、「嘘だろ?」と弱々しい声で言った。
私はそんな翔太さんの目を真っ直ぐ見据えてこう言った。
「本当です」
…翔太さん、ごめんね。
短い間だったけど、あなたと一緒にいられて本当に幸せだった。今までありがとう。
…幸せになってね。
「さようならっ…!」
私は一言だけ告げると、翔太さんと水瀬さんに背を向け、スタジオを飛び出した。
コツッコツッコツッコツッコツッ…
スタジオを飛び出した私はまだ履き慣れないパンプスの足音を響かせながらだだっ広い廊下を走っていた。
向かっているのは流れ星芸能事務所。
社長に翔太さんのマネージャーを辞めると伝えるためだ。
でもやっぱりスーツにパンプスは走りにくくてしょうがない。
…走る必要なんてないのかもしれないけど。
私は足を止めて後ろを振り返ってみる。
広くて長い廊下には静寂が広がっていて、私の名前を呼ぶ翔太さんの声も、私を追いかけてくる足音も全く聞こえない。
私はそれに少し胸が痛くなる。
自分から翔太さんのマネージャーを辞めると言っておいて、追いかけてきてほしいなんて。「辞めないで」って言って引き止めてほしいなんて。私は我が儘だ。
私は気持ちを切り替えるように自分のほっぺたをパンパンと叩くと体を向き直し、再び走り始めた。
『もう決めたことなんだから…!!』
スタジオがある建物を抜け出した私は、何時間か前に翔太さんと一緒に歩いた道を夢中で駆け抜けた。
『事務所まであと少しだ…!』
そう思った時だった。
私は見覚えのある人の姿を見つけ、思わず足を止めた。
その人も私に気付くと、ピタリと足を止め、こう言った。
「…梅ちゃん?」
この低くて落ち着いた声…。間違いない。
「裕紀先輩…」
私に夢を与えてくれた、裕紀先輩だ。
「元気?…でもなさそうだね」と笑う裕紀先輩。
久しぶりに見る裕紀先輩の優しい笑顔に私の張り詰めていた気持ちが解けていく。
気付けば私の目からポロリとこぼれ落ちる涙。
そんな私を見た裕紀先輩は何かを察したかのようにこう言った。
「ここの近くに美味しいカフェがあるんだ。よかったら今から一緒に行かない?」
さっきまで急いで事務所に向かっていた私だけど、『今だけはこうして裕紀先輩と一緒にいたい』と思った。
事務所にはあとで行けばいいよね…。
そう考えた私はハンカチで涙を拭くと、笑顔でこう言った。
「そこ、連れてってください」
すると、裕紀先輩は嬉しそうに「わかった」と頷いた。