いちごケーキと秋の夜
 ああ、もう、恥ずかしいなんて言ってる場合じゃない。

「行かないで」

 消え入るような声で、やっと言えた。

 啓祐がどんな表情をするのか怖くて、もう何も言えなくて、永遠のような数秒が過ぎて。

 立ち上がった啓祐が、そっと私を引き寄せた。

 
 なんにも変わらない。この決断が、自分にとってプラスになるのか、そんなことわからない。
 けれど、ただ感じたのは、啓祐の腕の温かさと、優しさだった。

「こんな俺でも、いい?」

 今度は、啓祐の声が少し震えているように聞こえた。

 
 テーブルの上で、啓祐が点けてくれたケーキのキャンドルが、ゆらゆら優しい光を灯している。

「いいんじゃない? 別に、私たちがよければ、それで」

 強がりかもしれない。
 感傷かもしれない。

 けど、こんな風に笑えるなら——これも、きっと、私たちの正しい選択なのだろう。

「占い師のくせに、自分の未来はわからないの?」

 冗談めかして恥ずかしさをごまかすと、啓祐が、抱きしめる腕にぎゅっと力をこめた。

「占わないようにしてるんだ。——怖いから」

 ふっと笑いあった後、優しく唇が重なる。

 
 力を抜いて、私たちらしく。


 そう、これからもゆっくり一緒に過ごしていこう。



 電気を消した月明かりの中、私は啓祐の下でそっと目を閉じた。




 Fin



 

 
 
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