LOVE物語
ーside遥香ー

朝、目が覚めると頭に水枕があって隣には尊が私を抱きしめたまま眠っていた。

待って、私昨日どうやって寝たの?

全然記憶に残っていなくて頭がぼーっとしていると起きた私に気づいた尊が、

「遥香、おはよう。」

と普通に挨拶してきたけどそんな冷静でいられない。

「私、昨日どうやって寝たの?」

「え?覚えてない?」

全く覚えてない。
しかも、お風呂入ってないっぽいし。
私は、素直に頷いた。

「どこまでなら覚えてる?」

「ご飯食べ終わったところまでなら。」

「その後な、遥香が元気なかったから体温を測らせてもらったんだ。そしたら微熱があって、怠そうだったから遥香を俺のベッドに運んだんだ。」

「そうだったんだ…」

ん!?待って?運んだ!?

「私を運んだの?」

「そうだけど?」

「私、重くなかった?」

「重いわけないだろう。むしろ、思ってた以上に軽くて心配だ。」

「大げさな。」

「大げさじゃないよ。そんな細いのに。体重のことは少しずつ増やしていこうな。それより、昨日は嬉しかったよ。」

「昨日?」

「もしかして、そのことも覚えてない?」

「ごめん。」

俯いた尊。
すごい落ち込んでる。
申し訳ないと思い、尊の顔をのぞき込むと尊の胸の中に押し込まれてしまった。

「遥香、朝から俺の理性を飛ばさないで。」

「え?」

「すごい焦った顔してたからつい可愛くて。」

「もう!尊のばか。」

私は、訳の分からないことばかり言っている尊から離れリビングに向かおうとベッドから立とうとしたけど…

「うっ…」

立ちくらみが起こり再び尊の腕の中に収まった。

「無理して立つなよ。いつも言ってるだろ?寝てから起きる時すぐに立ち上がるなって。」

後ろで尊が抱きしめてくれたから大事にはいたらなかった。

「尊が変なこと言うからでしょ。」

「ごめんって。そんなに怒るなよ。」

そう言いながら私の髪の毛を撫でる。

「遥香、体温を測らせてもらっていいか?」

「え…。」

熱が上がってたらどうしよう…。

「大丈夫、遥香を触った感じ昨日よりは下がってるから。」

私の考えていたことすぐに尊は気付いてくれる。
だから、言葉にしなくても伝わることはちゃんと伝わってくれる。

それがすごく、嬉しい時もある。

そして、何より安心できる。

「遥香?ぼーっとしてるけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。」

「そっか。」

尊は私の頭を撫でると体温計が鳴るまでそばにいた。

なんとなく、私が昨日言った言葉分かった気がする。

「尊、そばにいてくれてありがとう。」

素直にそう口に出来た。

「な、なんだよ急に。
でも…遥香、俺はずっとそばにいるから不安になったりしなくていいよ。頼まれなくても、遥香のそばにいる。」

「ありがとう…。」

嬉しくて涙がこぼれ落ちた。

「もう、泣き虫だな。泣くと体温上がるぞ?」

そう言うと、私の涙を親指で拭ってくれた。

しばらくして体温計が鳴ると尊に渡した。

「うん。37.4。まだ微熱だから今日はゆっくり休んでな?」

「でも、学校行かないと…ただでさえ、1ヶ月入院してたんだから皆に追いつけなくなっちゃう!」

「んー、でもなぁ…。」

尊が行くなと行っても私は行くつもり。

「休めって行っても、遥香は無理してでも行きそうだからな。じゃあさ、約束して?無理はしないこと、何かあったらすぐ保健室で休ませてもらって、俺に電話をすること。いいね?保健室のことは梓に頼んでおくから。」

「でも、仕事の迷惑じゃ…」

「それが守れないなら行かせられないなー。てか、もう迷惑かけてるとか思うなよ。迷惑なんて思ってないんだから。」

頭を撫でる尊の手が温かい。

「よし、朝ご飯食べよう。」

「うん。」

それから、朝ご飯を食べて尊の車に揺られながら学校へ向かった。

「発作が出そうになったらちゃんと吸入するんだよ?」

「分かってる。」

だけど、最近は出そうになったら吸入だと間に合わなくて、すぐに発作が起きてしまう。

そのことは、尊には言ってない。

言った方がいいのかもしれないけど、喘息が悪化してるなんて言われるのが怖くてちゃんと言えてない。

「本当に大丈夫か?なんか不安なことある?」

「いや!大丈夫だよ!」

尊に心を見透かされている気がして変に動揺してしまった。

「本当か?」

「うん。あ、じゃあ行ってくるね!」

タイミングよく学校についた。

「気をつけてな。学校終わったら保健室な。じゃあ、何かあったらすぐに連絡すること。」

「分かってるって。」

そう言うと、車から降りた。

いつものように、校門をくぐり教室に向かうために階段を上ったけど、あることに気付いた。

どうしよう…吸入器忘れた。

「おはよう!」

「あ、千尋おはよう。」

「どうしたの?」

「私、吸入器家に忘れちゃって…」

「えっ!?今すぐ、尊先生に連絡しな!」

「でも、尊はもう病院行っちゃったから…言えないよ…」

「発作起きたらどうするの?それとも、私が取りに行くよ?どこに置いてあるの?」

千尋は、今尊と暮らしていることを知らない。

「私、一旦帰るね?梓先生にはちゃんと伝えておくから。」

「私も行こうか?」

「千尋は、授業始まるから大丈夫。また戻ってくるから。」

「無理しないでね。」

「ありがとう。」

私は、千尋と分かれてから担任のいる職員室に向かう。

最悪だ…

会議中。

入れないよね。

階段を昇り降りしてたせいか急に呼吸がしづらくなった。

どうしよう、今発作が起きたら病院にもどってしまう。

だからといって、家まで普通に歩いて30分はかかる。

こんな状態で行ったら、自分の体がもたないのは目に見えている。

私は、その場に座り込んでしまい先生の会議が終わるのを待った。

しばらくして、職員室のドアが開いた。

「遥香ちゃん!?」

私に気づいて走り寄って来てくれたのは梓先生。

「先生…忘れちゃって…」

「え?」

「吸入器、家に忘れちゃって…」

「そっか。ごめんね、会議で待っててくれたんだね。担任の先生には伝えておくから、私の車乗ってて?」

「うん。」

「立てる?」

私は、立とうとしたけど目の前が真っ暗になり倒れそうになった。

そんな私を見て、梓先生は抱きとめてくれた。

「無理そうね。朝も血圧低かったでしょ。」

「うん。」

それから、梓先生は担任の先生に急いで伝えてきてくれて、私の肩を支えながら車に乗せてくれた。

「遥香ちゃん、尊と暮らしてるんだよね?」


「あ、はい。」

「尊に言わなくていいの?少しの体調の変化でも言えって言われてそうだけど。」

あんまり心配かけちゃうと呆れられちゃうから言えないよ…。

具合が悪くて、私は母親に愛想をつかされた。

重なる入院費、治療費。

母親は男にお金を貢いだりして膨大な借金をしていた。

そして、一向によくならない喘息の発作が母親を壊していったんだ。

そんな母親が、最低だと思えない。
母親に負担かけた私も悪い。

だから、また裏切られることが怖くて体調が悪い度に連絡なんてできるわけない。

また、こんな事を考えるなら私はずっと1人でよかったのかもしれない。

「遥香ちゃん?」

「え?」

「大丈夫?」

ずっと俯いていた私を心配した梓先生は言葉を付け足した。

「私、余計なこと言ったよね。ごめんね。
だけどね?尊は、遥香ちゃんのことをすごい心配してるんだよ?昼休みと、夕方の2回は必ず私の所に電話があるの。遥香ちゃんの様子が知りたいって。尊は、遥香ちゃんのことを本当に大事に思ってるよ?妹の私が言うんだから間違えないわ。遥香ちゃんと出会って、尊は変わったのよ。遥香ちゃんに出会う前は女に興味なかったの。遥香ちゃん、これからも尊をよろしくね。」

女に興味がなかったって意外だなぁ…

だけど、私こんな病弱で尊のそばにいてもいいのかな。
喘息の、入院費とか治療費でお金は結構かかってるはず。
それに加え、大学に行きたいなんて尊の負担が大きすぎるよね…。

「梓先生。私がこんなに病弱だと尊に呆れられますよね。やっぱり、病院の治療費とか入院費とか払うだけでもかなり大変なのに、私が大学なんて行ったらダメですよね。こんなに尊に負担ばっかりかけてると、私のこと嫌になっちゃいますよね…。」

「遥香ちゃん。それは違うよ?」

「もちろん、尊と一緒に暮らせて私は幸せです。でも、やっぱりこんな事考えるなら私は1人でよかったかなって。」

「遥香ちゃん。もしかしてもう1度捨てられること怖いの?」

「…うん。」

「尊はね、遥香ちゃんのことを守りたくて救いたくて遥香ちゃんのそばにいようって思ったんじゃないかな?
それから、大好きだから絶対離れたりしないよ。それに、尊はそんなに無責任なことはしない。遥香ちゃんのことを簡単に手放さない。だから、もう楽になりな?もっともっと尊を頼っていいんだよ。」

私は、先生の言葉を素直に受け入れていた。
尊の言葉じゃないけど梓先生は私のことを考えてくれている。

職員室から出てきた時それはすごく伝わった。

涙する私に、先生はハンカチを渡してくれた。

「安心して、尊のこと信じてくれていいからね。私が保証するから。」

「ありがとう、梓先生。」

「いいのよ。遥香ちゃんは私の妹みたいな感じなんだから。それから、尊だけじゃない。私も遥香ちゃんの力になりたいって思ってるから、辛いことあったら私に相談して。」

「はい。」

尊も梓先生も温かい。
2人の温もりにいつも助けられてる。

大好きか…。
私も尊が大好きなのかもな。

私は、吸入器を取りに行ってから学校へと戻った。
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