【短】夏の逢瀬
草の陰りに草履(ぞうり)の足が取られそうになる。
だが、踏ん張って何とか体勢を整え、
ホッと一息をつくと自然と頬が緩んだ。
後ろの簪(かんざし)がシャラリと鳴り、
今更になって、いつもと違った髪の結いが、妙に気になる。
裾(すそ)を小さく握り、周りにそっと耳を傾けた。
足音が聞こえる。
早くお顔をみたい。
けれど、隠れたい。
茂みを分ける音がすぐ近くできこえ、ハッとしたとき、
狐のお面をかぶり、甚兵衛(じんべえ)を着こなした、男の子が現れた。
あ、と声が出そうになり、恥ずかしさと、いつもの癖で裾で口を覆(おお)う。
男の子は、何も言わない。
それもまた気恥ずかしく、小さく顔を覆(おお)ってしまった。
その間に気配が少しずつ近づいてきて、
振り返れば、
静かに男の子の胸に抱かれていた。
男の子の伽羅(きゃら)の香りが弾け、全てが包み込まれる。
嬉しさと恥ずかしさと、愛おしさで涙が出そうになった。
また、逢えたね
また、逢えたな