花ちゃんは今日も頼くんの言いなり
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生徒玄関は見渡す限り下校を急ぐ生徒でいっぱいで、結局涼くんとは話せないまま一日が終わってしまった……と肩を落とす。
分かってはいたけれど、片想いの相手と距離を縮めるのはなかなか難しい。
下駄箱から靴を取り出して、ハァと大きめのため息をこぼしたところで誰一人、気にもとめないけれど……。
「ハァ……」
私のため息は止まらない。
ことため息は髪を切ったことに気付いてもらえなかったからじゃなくって、
夏休み明け初日に、涼くんと話せなかったことに対するため息。
「明日は……」
自分から頑張って話しかけてみようかな!
なんて。
頼くんのおかげで、前の私からじゃ考えられないくらい前向きになれてる気がする。
「よし!」と自分に気合を入れた、その時。
「三津谷」
柔らかくて落ち着いた声が、私の鼓膜を震わせた。
「っ!涼、くん」
「今帰り?」
「あ、うん!涼くんも?」
まさかすぎる涼くんの登場に慌てる私のことなんかお構い無しに、涼くんは王子様並の笑顔を投下した。
……あぁ、もう。この人すごいかっこいい!