ぬくもり
「美沙…
何でここに…?」



そんな俺の問いには答えず、美沙は幸代の方に向き直る。



「井上とは、だいぶ長いんですよね。」


「…。」



幸代は黙って俯くだけだった。



「私、離婚しますから。
井上、あなたにあげます。」


「美沙…!」



それだけ言うと、美沙は俺には目もくれず、優を連れて店から出て行った。



「司、早く追いかけなきゃ!」



呆然としている俺を幸代が促す。


「ごめん、また連絡する。」


幸代の声で我に返り慌てて美沙の後を追うものの、美沙の姿はもうどこにも見えなくなっていた。



どうして美沙がここに…?

離婚ってなんだよ。


離婚の2文字が頭の中を駆け巡っていた。



家に帰る足取りも重かった。



幸代の事を何て言えばいいんだろう…。


今は何もないと言っても、美沙に嘘をついてたのは事実だし、昔は決して何でもない関係ではなかったんだし…。



家のドアを開ける事がためらわれる。


心を決めて家のドアを開けると中は真っ暗なままだった。

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