ぬくもり
食事中も俺は上の空だった。


どう彼女に切り出したらいいか、そんな事ばかり考えていた。


話を切り出すタイミングを掴めないまま食事が終わる。


「後、1杯だけ飲んで行かないか?」

「うん。」


グラスでワインを1杯ずつ注文した。


これを飲み終えるまでに、幸代に話さなきゃならないんだ。


俺は彼女に話す覚悟を決めた。



「実はさ、うちの嫁にバレたんだ…。」



別れる原因がこんな理由しか思いつかなかった。



子供ができたからなんて残酷な事は言えず、思いつく理由はこれしかなかった。


「そっかぁ…じゃあ、今日でおしまいだね。


何か話があるんだろうなって思ってた。

今日の司、変だったから。」





「本当にごめん。


幸代に我慢ばっかり、つらい思いばっかりさせて…ごめん。」



「つらくなかったって言ったら嘘になっちゃうけど、あたしとの時間作ってくれたり、あたしの事大切にしてくれてたのわかってる…だから謝らないで。


いつかは終わっちゃうって、知ってて付き合ってたんだもん。」


幸代は精一杯の笑顔で笑ってくれた。



「さて、飲み終わったし帰らなきゃね。」


幸代に促され店を出る。

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