ぬくもり
「司の携帯見ちゃったの。

司が残業って言ってた日、会社に電話したら帰ったって言われたから…」



2人の間に沈黙が流れる。


その時間は、ほんの何秒間かだったけど、俺にはひどく長い時間に感じられた。


「ごめん…。

でも今は、今はもう、もう、そんな関係じゃないんだ。」



俺の言い訳がましい言葉を、またしても美沙が静かに遮った。



「あたし、司に捨てられるのが怖かった…
だから、何も言えなかった。」



俺は思い出していた。

妊娠中に美沙の様子が、急におかしくなってしまった事。



毎日何度も電話を掛けてきて、俺を色々チェックしていたのは、幸代との事を知っていたからだったんだ。



「違う、美沙違うんだ!

確かに彼女とはそうゆう関係だった。
それは認める。

でも今は…」



俺は何を言おうとしてるんだ???


幸代とは友達だとでも言う気か。



そんな話誰も信用しない。



俺は口をつぐんだ。


「私ね、子供の時、親に虐待されて育ったの。」



美沙からの衝撃的な告白だった。



今日はいい天気ですね、とでも言うように美沙はさらっと言ったので、自分の耳を疑うほどだった。


「…え?」


「なのに、私は優の事を虐待していたの。
産まれて間もない小さな優を…。」



美沙の目からは涙が溢れそうになっていた。

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