ぬくもり
幸代に会っていた分だけ、いつもより遅い帰宅になってしまった俺は急いで家に帰った。



玄関を開けると、電気は点いているのに家の中は静かだった。



もしかして、出ていったのか…


慌てて室内に走りこんだ俺の目に映ったのは、優の体に沿って卵形に眠ってる美沙と、その中で大の字で寝ている優の姿だった。



良かったぁ…



2人の姿を見て安心した俺は、とりあえずソファーに座り込む。



久しぶりに見る美沙の寝顔。



俺は美沙に何もしてやれなかったな。



1人で苦しんでるのはわかっていた筈なのに、手を差し伸べる事もしなかった。


親から虐待を受けてたなんて知りもしなかった。



優を虐待したって話した時、美沙はどんな気持ちだったんだろう。




俺は美沙の寝顔がよく見えるように、優を踏まないよう気をつけながら、美沙の側にひざまづく。




美沙の寝顔が、この何年間の苦しみを物語っていた。



目の下には常にくまができ、窪んでしまった目。


頬はこけて痩せているというよりは、やつれていた。



肌にもすっかり張りが失われていた。



以前の美沙は、太ってはいないけど痩せてもいない。


肌も、もちもちしていて艶があった。



俺と一緒になったせいで…



俺の目からはいつの間にか涙が零れていた。

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