ぬくもり
「それで、お話って何ですか?」



沈黙に耐えきれなくなり、私の方から切り出した。



「あの…」


彼女の声が裏返る。

この張り詰めている空気に、私以上に緊張しているのが良くわかる。



「奥さんにお詫びが言いたくて…
誤解も解きたかったんです。」


「誤解?
じゃ、あなたと井上は何でもないとでもいうんですか?」


彼女はだまって頷く。


まっすぐに私を見ている彼女の視線が癇に触る。



「井上に『何でもなかった』と言えと言われて来たんですか?」


私は怒りのあまりに声が震えてくる。


「違います。
私が、私が勝手に来たんです。
井上さんは何も知りません。」



「そう、じゃ、井上とはどんな関係だというんですか?」


私は意地悪く言い、彼女の目を見据える。



「井上さんとは…
確かに以前は、そうゆう関係でした。

申し訳ありません。」



そのままとぼけるつもりかと思っていたら、彼女はあっさりと司の事を認め、テーブルに頭をこすりつけるように、深く頭を下げた。



「最初から言われてたんです。

家庭を壊すつもりは全くないと…

私が井上さんに、しつこくつきまとっていたんです。」



ぬけぬけと話すこの女を、ひっぱたいてやりたい衝動を必死で抑え話を聞いていた。



「でも、井上さんに終わりを告げられたんです。

理由は何も聞けませんでしたけど、きっとお子さんが産まれるからだったんじゃないかなって、お子さんを見て思いました。」



じゃあ…
私が気づいた時と同じ頃に別れたって事?



私は当時の頃の事を一生懸命に思い出す。



確かに優を妊娠したと司に話した後、司は毎日早く帰っていた。



私が、司と瀬田幸代の関係を知ったあの日以外は…



じゃあ、あの日に終わってたって事…?


司は、私のところに戻ってきてくれていたの?

< 149 / 202 >

この作品をシェア

pagetop