ぬくもり
ドアを開けた司は、ポンっと私の背中を押した。


私は一歩一歩踏みしめるようにして、部屋の中に入って行く。



「お姉ちゃん、来てくれたの?」



妹の沙耶が嬉しそうな顔で近づいてくる。


私が家を出た頃はまだ学生で幼かった沙耶は、すっかり大人の女性になっていた。



殺風景な病室の窓際にぽつんとある簡素なベッドに、横たわっていたその人には、沢山のチューブが取り付けられてた。


私は眠ってるその人から視線をそらせない。



沙耶と司が、挨拶を交わしているのを、私は遠くに聞こえていた。



「まーま?」


いつもと違う私の様子に気付いた優が、私のスカートの裾を引っ張る。



私は優と手を繋ぎ、眠っているその人に、少しずつ近寄って行く。


そんな私を支えるように、すぐ後ろに司が居てくれた。



「お母さん!
お姉ちゃん来てくれたよ。
お母さん!」



沙耶が何度もその人の肩を揺する。



「美沙…?」


そう呟きながら、その人は目を開けた。


変わってしまってはいるが、確かに母親。



あんなにふくよかだったのに、すっかり痩せ細り、毒々しい程の厚化粧が嘘のような土気色で何の化粧っ気もない顔。



昔の華やかさが嘘のよう。



でも…紛れもなく、私の母親だった。
< 160 / 202 >

この作品をシェア

pagetop