ぬくもり
「ただいまー。」



私は司の声に、慌てて玄関へと飛んで行く。


帰ってきた司からは、少しだけお酒の匂いがしていた。



「お帰りなさい。」



『今日はどこに行ってたの?
今まで誰といたの?
会社に電話したんだよ。』


喉まででかかる言葉を飲み込み、無理矢理に作った笑顔で司を迎える。



聞くのが怖い…



聞いてしまうと、今までの幸せな生活も、赤ちゃんが産まれてきてからの3人の幸せな未来も、何もかも全てを失ってしまいそうな気がした。



「今日はずっと会社にいた?」


私はさりげなさを装い司に聞いた。



「いたけど…何でそんな事聞くの?」



どこか動揺しているような、不自然な感じに見えてしまう。


「別に…
接待とかじゃないのかなって思って聞いてみただけ。」



「接待なんて、うちの部署はほとんどないよ。

まぁ、課長や部長の付き合いで飲みに行ったりする事はあるけど。」



「そういえば、残業の時はいつもご飯どうしてるの?」



「たいていコンビニだけど、何で?」



訝しげな様子の司。


「別に、今度お弁当でも届けようかなって思って…
あっ、お風呂沸いてるよ。
入るでしょ?」



司がバスルームに入るのを見届けてから、寝室へと急ぐ。


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