ぬくもり
優は私達の間を何度もうろうろしながら、涙を拭いてくれた。



時には小さなその手で、時には側に置いてあったポケットティッシュを手に取って、私と司の涙を拭き続ける。




先に涙のとまった司が、真っ直ぐに私の目を見て話しだす。


「知ってたんだ。
美沙が、優にしている事。

美沙に言われる前からずっと知ってた…。」



司からの衝撃的な言葉だった。



「知ってたんだ…」



私は唇を噛みしめる。


2人の間に、少し気まずい沈黙が流れた。



そんな私達にはお構いなしに、優は秋が近づいてきた事を知らせるトンボを追いかけはじめた。




「美沙とも、優とも向き合う事ができなかった。

どうしたらいいのかわからなくて、家に帰らないようにする事で、逃げてた…」



ぽつりぽつりと話す司の手が、小刻みに震えている。




「優が産まれた日、病院での美沙を見た時、怖かった。


美沙の気持ちの深い部分が何なのか知るのが怖がった。

美沙の全てを受けとめる自信がなくて、美沙からも、優からも逃げ続けた。


そのせいで美沙と優がどれだけ苦しんだか…

こんなに苦しめて今さら別れたくないなんて言える立場じゃないけど…

美沙と優とずっと一緒にいたい。

側にいさせてほしい…」



『一緒にいたい』


その言葉が、私の心に染みこんでいく。


司の目には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。




私はそっと司を抱きしめた。

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