ぬくもり
「もう大丈夫だからいい。」


背中をさすってくれている司の手を、ぶっきらぼうに払いのけ、2人の間の沈黙を破る。


「何しにきたの?
仕事は?」



「仕事は抜けても大丈夫そうだったから…。」


「別に無理してここにいてくれなくてもいいから。」


私は意地悪く司に言い捨てた。

司は無言。



違う、こんな事が言いたい訳じゃなかった。



本当は司が来てくれて嬉しかった。


さっきまでの、どうしようもなく不安と孤独でいっぱいだった気持ちが嘘のように穏やかになっていた。



司が側に居てくれる事が、私に安心と安らぎをもたらしてくれた。



自分でも驚く位に…。




私はかなりの難産で、丸一日陣痛に苦しみ、赤ちゃんが産まれてきたのは、その日の夜遅くだった。


産まれたばかりの赤ちゃんを看護婦さんに抱かされる。

何の感情もわいてこない…。



そんな自分が少し怖くなる。


どうして何とも思わないんだろう?


あたしの赤ちゃんなんだよ。



あたしと、司の赤ちゃんが産まれたっていうのに…。



あたし…どうして何とも思わないの?

< 37 / 202 >

この作品をシェア

pagetop