ぬくもり
異変
美沙から子供の産まれる日を教えられたが、大事な取引先との、どうしても抜けられない商談の仕事がはいっていた。



もっと前に教えてくれれば一緒に行ってもあげられたのに…。




『大事なんて思ってたら予定日ぐらい覚えてるでしょ、普通は…。

司がそんなんだから、ギリギリまで言い出せなかったんじゃない!


せめて予定日位は覚えててほしかったよ。』




美沙の言葉を思い出す。


美沙が言うのも、もっともだった。


大事な事とか言っておきながら、子供の産まれる予定日なんて覚えてもいなかった。


いつ産まれてくるのかなんて、気にもしてなかった。



そんな俺に、なかなか美沙が言い出せなかったのも、しょうがない話だった。



そうは思いながらも仕事の商談をずらす訳にもいかず、罪悪感を持ちながらも俺はいつものように仕事に行った。


美沙は部屋から出てもこなかった。



取引先の会社に行き、担当の岡崎課長に会う。


話を進めながらも時折、美沙の事を考えてしまい、話に集中できずにいた。



「井上さん、どうかしました?」



「すいません。」



「何かいつもと違うなぁ、何かありましたか?」



「すいません。
実は今日うちの妻に子供が産まれるもんですから。
ちょっと気になっちゃいまして…
すいません。」



岡崎さんは取引先とはいっても、うちの課長とは友人で、課長と一緒に飲んでる時に、顔を合わせ同席して一緒に飲む事も度々あった。



頼れる気さくな兄貴というタイプで、笑うと子供のように、目元がくしゃくしゃになり、そのスマイルはうちの会社の女性社員にも大人気だ。


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