ぬくもり
課長には、既に岡崎さんから連絡がいっていたようだった。


子供が産まれそうだからと、課長に伝えると快く帰る事を了承してくれた。


病院につき受付で美沙の事を聞き、美沙の元へと急ぐ。



2階の分娩室の隣の部屋は…ここだな。


部屋に近づくと言い争ってるような女の金きり声が聞こえてくる。



子供をいらないとか、産まないとか、ひどく錯乱しているようだ。



いざ産む段階になって何言ってるんだろうなぁ。
看護婦さんも、他の患者も迷惑だろ。



そう心の中で毒づきながら、部屋に入りかけた俺は驚いてその場に立ち尽くした。



髪を振り乱し、もの凄い金きり声をあげて、泣きじゃくりながら暴れ、3人もの看護婦さんに取り押さえられている病的なほどに、ひどく錯乱したその女は美沙だったから…。



看護婦さん達に抑えこまれながらも、美沙は子供なんて産まないと、悲痛なほどに泣き叫んでいる。


そんな美沙の姿は、俺の目にはひどく恐ろしく映った。



その異様な光景に、俺の背筋を冷たいものが通り過ぎる。



意味がわからない。


美沙はどうしちゃったんだ?



美沙は何してるんだ?



驚きすぎて、俺は身動きすらとれず、黙ってその場に立ち尽くす。



美沙は叫び続けながら部屋を飛び出して行こうとする。



俺が立っている事に気がつき美沙は放心したように俺の顔を見ている。


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