ぬくもり
逃避の日々
気づいていた。
本当はずっと気づいていたんだ。


お腹に優がいた時から、優を産む前から、美沙が壊れていた事を…。



今美沙が優にしている事も…。



仕事が終わり家に帰ると、優のほっぺたはいつも真っ赤だった。


顔にはよく涙の後があった。



『虐待』
最近ニュースでよく耳にする言葉が頭をよぎった。



初めは信じられなかった。
信じたくなかった。


会社が終わり、家の玄関のドアの前に立った時、物凄い声で泣いている優の声が聞こえてきた。



俺は家のドアを開ける事ができずに、ドアの前で家の中の様子に耳をこらす。



優の泣き声と一緒に美沙のヒステリックな、叫ぶような声が聞こえてくる。


優の泣き声が高くなる。



優を産む時の、病院での異様な光景が思い出された。



俺はそっと家のドアを離れ、逃げるように元来た道を引き返していた。


俺の行った先は、行きつけの飲み屋だった。



酒でも煽らなきゃやり切れない気分だった。

< 50 / 202 >

この作品をシェア

pagetop