ぬくもり
家についても優のぐずりは収まるどころかどんどんひどくなっていく。



イライラしながらも優を抱きあげるが、一向に収まらない。


「美沙さん、駄目だよ。
美沙さんが怖い顔してるから、優ちゃん泣き止まないんだよ。」



「え?」



自分で怖い顔してるつもりは全くなく、凌君の言葉にハッとさせられた思いだった。



「こぅ…?」



自信のない、微妙な作り笑顔で優を抱き寄せてみる。



「翔はね、僕が悲しい顔をすると泣いちゃうんだ。
でも、僕が笑ってあげると翔も笑ってくれるんだ。

大好きな人の声がすると、安心するから、いっぱい話かけてあげなさいってお父さんがよく言ってた!」



私は凌君に言われた通りに、まだひきつる笑顔でだけど、優を抱き、優の目を覗き込みながら、優に声をかけてみた。



「優、大丈夫だよ。
優…」



その時、いくらあやしても泣き止まない優が、初めて私に笑顔をくれた。



「可愛ぃ…」



思わず自分の口をついて出た言葉に自分でも驚く。



私は今、優を心の底から初めて可愛いと、そう思う事ができたんだ。



胸がいっぱいになっていく。



初めて見せてくれた優の笑顔には、涙がいっぱい溜まっていた。



まるで、今までの優のつらさを表しているような、そんな笑顔だった。

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