ぬくもり
「久し振りだね。」



最初に話し始めたのは幸代の方だった。


2年以上振りに会った彼女は、以前よりも数段綺麗になっていた。



「あの時、何で急にいなくなったんだよ。
携帯に掛けても解約してあるし、家に行っても引っ越してるし、本当に心配したんだ。」



「ごめんなさい。」



「何で何も言わずいなくなったんだよ。」



俺は責めるように彼女を問い詰めてしまう。



「あ、ごめん。
俺がこんな事言う権利なんてないよな…。」



幸代は俯きながら首を振る。



「あの時はああするしかなかった…
司を忘れるには、会社を辞めて司のいない所に行くしかなかったんだ。」



呟くように話す幸代の姿に、忘れかけていた罪悪感が波のように押し寄せる。



「ごめん…。」



自分で別れ話したくせに、何言ってんだ俺は…。



「いやぁーだ。
謝らないでよ。
そんなつもりで言った訳じゃないよ。」



夕方の涼しい風が、2人の間を通り抜けて行く。



以前にはなかった2人の距離感。

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