田舎に行こう
こんな小さな町に暮らしてる
ということはどこかで
会ってるかもしれないとは
思っていた。

でも、こんなにも近くに
いた人だったなんて
奈津には信じられなかった。

母親に促され、先生は
座り、ゆっくりと奈津の
姿を見つめていた。
それは学校で向けられる視線とは
違い、父親が娘を見つめる
瞳だった。

奈津は居心地の悪さを感じた。
突然、そんな目で見られても
自分の中では先生は先生でしか
ないからだ。

母親はゆっくりと話はじめた。
「前に彼には夢があって・・
 それで別れたって奈津には
 言ったわよね。
 その夢っていうのが、先生に
 なってこの町に帰ることだったの」

そしてと付け加えた。
先生は教員免許をとって
母親を迎えにきてくれたが
断ったと。

その理由は奈津にもわかった。
それは娘を育てるために
母親がどんな仕事をしていたのかは
奈津にもだいたいわかっていた。
そんな女と結婚なんて
この町では許されるはずがなかった。
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