夢で会いたい



会場に着くまでに、私はくたくたになっていた。

ホテルにチェックインして着替え、予約していた美容院でヘアメイクをしてもらう。
たったそれだけなのに、いちいち人に揉まれる移動に疲れてしまったのだ。

人の流れができているから自分の歩きたいペースで歩けない。
立ち止まるのも一苦労。
ぶつかってしまうこともしょっちゅう。

土曜日だから混んでいるのだろうけど、こんなだったかな?
住んでいた時はもっとうまくできていたと思う。
拠点がここにないだけで、急に生きにくくなった。



会場はホテルの上階にあるレストランだった。
挙式は親族と済ませているため、二次会は友人や職場関係の人だけ集まるという。


「北村さーん、久しぶり!」

先輩の西さんに呼ばれて席に着く。
西さんは由香里さんよりも更に上の先輩で、結婚されてお子さんもいる。

由香里さんがお姉さんなら、失礼ながら、西さんはお母さんのような存在だった。
隣の席が西さんでホッとする。

「西さん、お久しぶりです。今日裕士君は旦那様に?」

「そう。やっと旦那でも平気になってくれて助かった。これでどこでも遊びに行けるわー。北村さん、今は何してるの?」

「実家の方の本屋で働いてます」

「本好きだったっけ?」

「いいえ。全然読みません」

「だよね!そういうイメージないもの」

私のイメージって一体どういうものだったんだろう。

「そういえば、西さんって本読みますよね?米田朋策って知ってます?」

「マイダ?何書いた人?」

「『一握の米』が今ことばの森文学賞にノミネートされてます」

「あ、その本なら聞いたことある。でも読んだことはないなあ。何?書店員おすすめ?」

「いえ。ただの市場調査です。無名ということがわかったので十分です」
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