向日葵の天秤が傾く時
「ここは私の行き付けの店でしてね。煮物がこれまた美味いんですよ。」



薔次が巫莵を連れて来たのは、落ち着いた雰囲気漂う小料理屋。


座敷の小さな個室に案内され、渡されたタオルで体を拭きながら女将と話す薔次を見る。



「自己紹介がまだでしたね。私は劬耡夘薔次、職業は弁護士…そして従業員5人の小さな事務所を経営しています。」


「……私は衢肖巫莵です。今は…無職、です。」



「そうですか。衢肖さん、料理が来ましたから冷めないうちに食べませんか?」



勧められた料理の数々は確かに美味しく、久しぶりに食べる温かみは全身に染み渡り巫莵の緊張を解していく。


その様子を見て、薔次は本題を切り出す事にした。



「差し支えない範囲で結構ですから、お話聞かせてもらえますか?」



「…はい。私、先月まで狄銀行の本部で役員秘書をしていたんです。ですが、役員同士が社内で揉め事を起こしてしまって。その原因が私だったことから、懲戒解雇に。」


「懲戒解雇……それは随分重い処分ですね。衢肖さんが原因というのは?」



「部長である瀑蛞拓という方の秘書だったのですが、入行当時から好意を寄せられていまして。」
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