甘くてしんじゃう。
甘くてしんじゃう。

(睫毛、長い……)



問題に悩むフリをして、向かい側に腰掛ける彼を盗み見た。

伏せた睫毛が輪郭を縁取って美しい影を落としている様を、瞬きせずに双眸へ焼き付ける。

ぎゅうっと喉に熱が篭った。



「ふみ?」



優しい声色で名前を呼ばれた。肩が跳ね上がり、視線を左右へ泳がせる。

そうして、ゆっくりと向かい合わせると、彼と瞳がぶつかった。



「京(きょう)くん。ここ、解き方がわかんない」

「んー、どれ」



フリではなくて、シャーペンの先で指した計算問題はほんとうにわからない。

自信なさげに伝えた。

木製の使い古した、椅子を引く年季の入った音が鼓膜を撫でた。

京くんの影が私に覆いかぶさるのがわかる。シャンプーの匂いが鼻をくすぐった。



「これは、さっき使った公式を当てはめてみて」

「えっと……」



左手に置いた参考書を捲りながら、彼の教えの通り公式を当てはめて……



「……できた!」



小声で喜び、それから、解答する。
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