最後の願いが叶うまで
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『あなたを永遠に愛してる。たとえ二度と逢えなくても、あなたを想えば私は生きていける―――』
そこまで文章を読み進めて、西崎朱音は小さなため息とともに本を閉じた。
やたらロマンチックなタイトルに興味をひかれて手に取ったけれど、ロマンチックすぎてまったく内容に共感できず、結局かりるのをやめて本棚に戻す。
明日から夏休みという日の、午後の図書室。
廊下や校庭から夏の大会に向けて部活動にはげむ生徒たちの気配は届いてくるけれど、図書室に人の姿はほとんどない。
貸出カウンターに人影はなく、朱音以外には、隅のテーブルで本を読んでいる男子生徒がひとりと、雑誌の棚の前で夏休みの予定について話に花を咲かせている女子生徒の2人組がいるだけだ。
静かな図書室にはあまりふさわしくない声の大きさで話す女子たちの会話は、聴く気がなくても耳に入ってくる。
朱音は本棚の間を歩きながら、ぼんやりと彼女たちの声に耳を傾けた。
花火大会行くんでしょ?いいなー私も浴衣デートとかしてみたいなー
あんたも早く山田にコクりなよ、それでさ、4人で海行こ!水着もかわいいやつ買ってさー
海かー!いや、待って待って、まだコクるとかムリだって……
なんてきらきらした会話なんだろう。
朱音はそっと彼女たちに視線を向ける。
朱音と同じ、水色の衿に水色のリボンのセーラー服姿の少女たち。
明日から始まる夏休みに、恋の期待をふくらませてはしゃぐ高校生。
同じ制服を着た同じ学校の生徒なのに、朱音にはまるで自分とは別の世界の生き物のように思える。
朱音は夏が嫌いだった。