最後の願いが叶うまで

『たとえ二度と逢えなくても、あなたを想えば私は――』


ゆううつな気分とともに、さっきの本の甘ったるい文章がふとよみがえる。

朱音は無意識のうちに、肩にかけたカバンの中身を探っていた。

取り出したのは、手のひらにすっぽりおさまるサイズの丸い小箱だった。

深い夜のような色をした、手ざわりのいい布張りのアクセサリーケース。
水底の魚のあぶくみたいな光沢のある白いビーズがふちを飾っている。


蓋を開けると、そこには花の形のブローチがおさまっていた。

陶器でできた白い四枚の花びらは、少し丸まった先の部分だけがほんのりとピンクに染まっている。


ハナミズキのブローチ。


朱音はそれがいつもどおりにそこにあることに安心し、それと同時に、胸が小さな音をたてて痛んだ。




「朱音?」


背中から突然名前を呼ばれて、朱音はビクッと肩を震わせた。
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