最後の願いが叶うまで
「うわっ、ご、ごめん。あの、ポニーテールが見えたからさ……」
振り返ると、背の高い男子生徒が、朱音の反応におどろいてのけぞっているところだった。
小学校からの幼馴染みで、今も同じクラスの八谷爽太郎(やたにそうたろう)だ。
いつも困ったように下がりがちの彼の眉毛が、さらに下がって困りきった犬みたいになっている。
朱音はすばやくスカートのポケットにアクセサリーケースを押し込みながらも、ホッとして笑った。
「そうちゃん。びっくりしたぁ、どこから出てきたの?」
「そっち、図書準備室。本借りる人いないみたいだし、みんなでキズ本の修理しててさ」
「ああ、そうちゃん図書委員だっけ。今日当番なの?」
「うん。朱音は部活で残ってたの?」
「うん、でも部展当日の予定の確認みたいなのだけだったから、すぐに終わったけどね。今はアユちゃんのプールの補習が終わるの待ってるんだ」
朱音は文芸部員で、金平アユも朱音と同じ文芸部の一年生だ。
アユの名前を聞いて、爽太郎は「へー、そうなんだ」と口ではいいながらもギクリと顔をこわばらせた。
朱音とアユは仲良しだが、爽太郎はアユのことが苦手なのだ。
「あ……そうだ朱音。花火大会ってさ。もしかして佐野と行ったりする?」
とうとつな質問に、朱音は首をかしげた。
「佐野くんと?なんで?行かないよ。そもそもなんで佐野くんと?」
「あ、いや……佐野が朱音のこと誘いたいなーとか言ってるの聞いたからさ」
「ええ?それ、どう考えても私のことじゃないでしょ。誰か他のニシザキさんかアカネちゃんのことだよ」
佐野はクラスの中心にいるような派手なグループの一員で、顔がいいから女子人気も高い。
地味な朱音のことなど眼中にないだろう。
『朱音は手も足もスラッとしててスタイルいいし、お目目が濡れたみたいにキラキラしててかわいいんだから、その気になればみんな朱音のことほっとかないよ』なんて褒めてくれるのは口の上手い友人くらいのもので、ありがたいけれど、しょせんお世辞はお世辞だ。