最後の願いが叶うまで
「じゃあ、佐野と行くんじゃないんだな?」
ホッとした様子で念をおすようにもう一度たずねてくる爽太郎に、朱音は不思議に思いながらも苦笑した。
「行かないよ。そう言ってるでしょ。というか、夏休みは部活以外ででかける予定はないよ。……夏は苦手なの。そうちゃん知ってるでしょ」
朱音の言葉に、爽太郎は複雑そうな顔で朱音を見た。
二人の間に沈黙が落ちる。
少しして、気を取り直すように口を開いたのは爽太郎のほうだった。
「そうだ、部展って、他校と合同でやるんだって?」
「そう、合同交流部展なの。他校の人に見てもらうから、部誌も今回はオフセット印刷だよ」
「うん、さっき見せてもらった。朱音のも読んだよ」
「えっ」
朱音はぎょっとした。
「委員会にも文芸部の子がいるからさ。なんでぎょっとしてるの。部誌に載ってるってことは誰が読んでもいいんでしょ?」
爽太郎はしれっと言う。
確かに彼の言うとおりなのだが、朱音の書いている小説はいわゆる青春ラブストーリーだ。
同じように小説を書いている部活仲間やまったく知らない相手ならともかく、部外の知り合いの、しかも男子には正直読まれたくない。
はっきりいって恥ずかしい。
「短めの話だったからすぐ読めたけど、あの主人公の片思いしてる先輩っていうのが……」
「わーやめて、感想とかほんとやめて」
「あかねー!おまたせー!」
感想をのべようとする爽太郎とそれをあたふたと止めようとする朱音のあいだに、元気な声が割って入った。
にぎやかだった女子2人組が図書室を出ていくのと入れ違いに、小柄な女子生徒が一人扉をくぐってこちらに小走りでやってくる。
「アユちゃん、しー」
さっきまでの2人組よりも声の大きなアユに、朱音はあわてて口もとに人差し指をたてる。
アユはプールの補習帰りでまだ少ししめったショートカットの髪を揺らして、「あっごめん」と口を押さえた。