最後の願いが叶うまで
あ、その話なら私も聞いたことあるかも……と朱音は手を上げてみせた。
『でも誰かが山に入りこんで勝手に花火でもしてたんじゃないか、ってことで落ち着いてた気がするけど』
『それはそういうことにでもしとかないと説明がつかなかったからだよ』
『そのヒトダマもお稲荷さんに関係があるの?』
『うん、ある人がそのヒトダマを追いかけてみたらしいんだけど、その真っ赤なヒトダマは、最後はお稲荷さんの祠の中に入っていってスウッと消えたんだって』
どう?気になるでしょ?と目を輝かせるアユを前に、朱音と爽太郎はふたたび目を見合わせた。
朧月稲荷という名前ですら初めて聞くし、アユには悪いけれど、ボヤ騒ぎに尾ひれがついて話が大きくなっただけのような気がする。
『話はわかったけど、アユちゃん、そのお稲荷さんに行って何するつもり?まさか縁結びのお願いとかを……』
『するわけないでしょ、私がしたいのは心霊スポットの調査!ちょっと足を伸ばせば行ける所にあるのに、行かない手はないでしょ!』
『でも1人で行くのは怖いのね』
朱音が突っ込むと、アユは「ははは」と頭をかいた。
『さすがにねー。でもほら、朱音は霊とかそういう話、ぜんぜん動じないじゃない。頼んだら一緒に来てくれるだろうなって思って』
『まあ、一緒に行くのはかまわないけど』
あっさりうなずいた朱音を見て、焦った声を上げたのは爽太郎だった。
『待ってよ2人とも。そこが本当に心霊スポットなのかどうかは知らないけど、そういう場所に興味本位で近づくのはよくないんだ』
『興味本位じゃないわよ。次に書く小説のインスピレーションをもらうっていう、真面目な目的があるんだから』
『いや、でも、お稲荷さんっていうのはとくによくないって……』
『だからさ、八谷くんも一緒に来てよ。霊感少年の八谷くんなら、そこが本当に入っちゃいけないような怖い場所なのかどうか、行けばわかるでしょ。
八谷くんがヤバイって感じたら、私たちも大人しく引き返すから』