悪魔に恋わずらい
「私……確かに先輩の靴箱に手紙を入れて……」
「俺、石崎から手紙なんてもらった覚えないけど……?」
先輩は本当に身に覚えがないのか、困ったように私を見つめるばかりである。
……手紙を捨てたのが先輩でないなら。
じゃあ、誰が?
誰が手紙を破ったの?
(ま、さか……)
おぞましい考えにたどり着いて背筋が凍る。
累くんのはにかんだ笑顔がどこかに霞んでいくようだ。
「紅子!?どこいくの!?」
私は樹里が止めるのも構わず校庭から校舎の方に向かって全力で走り出した。
生温い春の風が、余計に不安をあおる。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だよね?
累くんがそんなひどいことするはずがない。
信じたいのに信じきれない心が、足を動かしていく。