悪魔に恋わずらい
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「石崎さんと明石くんって同級生だったの!?」
同僚の神田さんが食いつき気味にいうと、テラスにいた周りの人達から注目を浴びてしまう。
彼女は明るく朗らかで良い人には違いないけれど、声が大きいのがたまに瑕だ。
「そう。中学、高校と6年間。大学も隣の駅で……、まあ累くんが留学するまでの話だけどね」
「そうなんだ!!うわあー羨ましい。学生時代の明石くんってモテモテだったんじゃないの?」
「さあ、どうだったかな……」
誤魔化している訳ではない。
学生時代を累くんに振り回され続けた私は、本当に覚えていないのだ。
……まあ、累くんがみんなの輪の中心から外れていることなどあり得ないけれど。
あの甘いマスクとぺらぺらとよく回る舌を駆使すれば、人心を掌握するなど彼にとっては容易いことである。
それはこの会社でも同じことで、一見すると人当たりの良い累くんはあっという間に新しい職場に馴染んでいった。
上司からは信頼を、女性陣からは黄色い声援を受け、入社一日目にして着々とその地位を築いていた。
(外面だけは良いんだよな……)
けれど、私だけが知っている。
好青年という仮面に隠された彼の素顔を。